2022年01月29日

「マチズモを削り取れ」(武田砂鉄著、集英社)

 世の中にあふれかえる「男性優位」について、「このままでよいのか?(いや、よいはずはない)」と粘り強く考察する本。武田さんの単著だけど、実質的には「すばる」の女性編集者Kさんとの共著といってもよさそう。

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男、めっちゃ有利なのだ。男、めっちゃ優位なのだ。福を専有してきた。福を失うのが怖いから、フェミニズムを嫌う。怖がる。あるいは嗤う。

(本書12ページ)

 「福を失うのが怖いから」という視点が大事ですね。男性優位な構造について男性が擁護するのは、既得権の固定化に他ならない。まずその点を意識共有しないといけない。道を自由に歩かせないことや便器を汚すことを「権利」と見なすのはものすごく変だけど、女性に対してそれを「我慢せよ」というメッセージを出すのはもっと変である。それなのに、どうしてそんなことが世の中でまかり通っているのか。これを、武田さんは一つ一つ考察していく。

 武田さんのいつものスタイルだけど、単純な「わかりやすさ」に落とし込まない、という強い思いはこの本でも感じられる。ただし、世の中の「男性優位な構造」に異議を唱えるときは、しばしば「見当外れな方向から反論がやってきて、問題が有耶無耶になる」という現象が起きる。痴漢被害に対して、痴漢冤罪の問題を持ち出すのがその典型でしょう。これに対しては、武田さんはこう語る。

痴漢冤罪もあるよ、という男の主張は、なぜ、痴漢がなくなれば痴漢冤罪もなくなるという、皆で団結できそうな目的よりも優先されてしまうのだろうか。

(本書39ページ)

 この「なぜ」に対しては、なんでも男対女の対立軸に持ち込もうとするから、と答えられそうではある。でも、たぶんこの答えは問題を単純化しすぎている。もっと深く考えないといけないよ、と武田さんに促されているような気持ちになる。

 私自身が「マチズモ」という言葉を最初に意識したのは、斎藤美奈子の文芸評論だったと思う(石原慎太郎の著作についての論評だった)。それまで意識してなかったの??と言われるかも知れないけど、そうだったんだから仕方がない。男性優位的な社会構造に対する違和感はずっと持っているけど、それに対する「見当はずれな反論」を自分の中に見つけてしまうことも少なくないし、なかなか難しいなと思っている。この本のおかげで、考え方が少し整理できた。武田さんに倣って、粘り強く考えていきたい。

タグ:読書
Posted at 2022年01月29日 16:26:32
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