2024年04月06日

映画「オッペンハイマー」

 話題の映画です。見てきました。

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出典:eiga.com、「ポスター画像」 https://eiga.com/movie/99887/photo/, (C)Universal Pictures. All Rights Reserved.

 3時間の長丁場ですが、集中して見られました。ちょっと音響が個人的にはきつ過ぎましたが、自宅のビデオや配信じゃなくて、映画館で見るのがふさわしい作品でしたね。

 「原子爆弾の父」と呼ばれるオッペンハイマーを描いた映画ということで、どうしても「核兵器に賛成か反対か」という政治的問題と関連づけて語られがちだと思うのですが、この映画はそこを目指してはいませんね。映画のタイトルが示すように、オッペンハイマーという個人に焦点をしぼって、その内面の変遷や葛藤を描いた作品だと思います。

 実験が不得手で、理論物理に光明を見出し、ドイツのゲッチンゲン大学に移ってマックス・ボルンと分子の構造に関する研究を行います(大学レベルの理論化学で誰もが知るボルン・オッペンハイマー近似)。アメリカで職を得たときに、いろいろな人に「分子についてのあなたの仕事は素晴らしい」と挨拶がわりに言われていたのはこれを踏まえたものですね。「実験が不得手」だったのは史実なのでしょうか。ウォルフガング・パウリのエピソードを少し混ぜてあるようにも見えました。

 オッペンハイマーがアインシュタインと会話を交わすシーンが数回あります。テラーの計算結果をアインシュタインに見せるシーンは史実ではないようですが(出典:「クリストファー・ノーランの発言から読み解く、映画『オッペンハイマー』に内包された「核分裂」と「核融合」の真意」立田敦子、Wired.jp, 2024/4/5)、アインシュタインがプリンストンでクルト・ゲーデルと親しくしていたのは史実のようです。ゲーデルが相対性理論の分野でも業績を残しているのは知らなかったので、これは新しい発見でした。

 共産主義やアメリカ共産党への接近のくだりは、予備知識不足であまりついていけませんでした。後半の主要テーマである公職追放事件も含めて、ある程度背景を知らないと、鑑賞中に十分理解することは難しいと思います。前半の原子核物理学の内容も含めて、鑑賞者の教養を試されるようなところはあります。

 日本公開前に、広島・長崎での原子爆弾投下による被害について直接的に描写されていない、という批判があったようです。最初にも書きましたが、この映画はそこを目指しているわけではないな、と理解しました。ただ、オッペンハイマー自身が葛藤して罪の意識を持つ場面が何度も登場します。オッペンハイマーの視点で見るならば、確かにこうなるだろう、と思います。そこはこの映画の弱点とは言えないでしょう。

タグ:映画
Posted at 2024年04月06日 16:57:53
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